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大村家の母屋。
「どっしり」がピッタリである。
安倍川左岸、静岡市平野。JA大河内支所のすぐ先から小さな九十九折りを登る。坂の途中には古い家並みが続いていて、見事な景観を見せている。どのお宅も、充分に取材対象になり得るような素敵な佇まいを見せている。そんな中にあって、大村邸の印象を決定的なものにしているのは、茅葺き屋根だ。その独特な形状は、甲州地方の影響を受けた「かぶと造り」と呼ばれるのもので、圧倒的な存在感をもつ。
美しい軒下。
これこそ優れた機能美の見本。
葺き替え間もない茅葺き屋根。
その厚さに圧倒される。
頑固一徹。 室内灯はそれを主張しているかのよう。
居間。 天井が見えるが、建築当時は吹き抜けだった。
居間から隣の部屋を。
大村家の歴史を語る、肖像画や古い時計。
茅葺きの維持管理の大変さはよく言われることであるが、まずはその辺りのことをご主人の大村さんに訊ねてみる。答えは素人の容易な想像を遙かに超えていた。茅葺き屋根の寿命は、わずか30年。丈夫で長持ち、などという勝手な思いこみが恥ずかしくなる。30年毎の葺き替えは、その膨大な費用もさることながら、今では少なくなった葺き替え職人の手配がままならなくなっており、その将来が心配なのだという。
しかし、そう答える大村さんの表情は思いのほか明るい。この家にはメリットもまた数多くあるのだ。その一例が、駆体が地震に強いということ。木を組み合わせた家は、適度な遊びがあり、外からの力をうまく逃がすようになっている。現代建築のガチガチな構造を、スプリングやゴムを使って地震から守ろうとする発想とは明らかに違う価値観だ。また、「現代建築には、まだまだ古い建物に学ぶべきところが多いはずです。」と大村さん。例えば、快適さを求める余り、密閉度が高くシックハウス症やアレルギーを引き起こしやすいとされる現代の家。そのアンチテーゼのように、大村さんは冬の寒さも風情として受け入れ、この家に住み続けている。四季を存分に感じる事ができるこの家を、こよなく愛しているのだ。
大村邸を見学にくる人たちも多いという。この佇まいを一目見れば、誰もが興味をそそられ、見学したくなるであろう。しかし“ひとときを過ごすこと”と“そこで生活すること”の大きな違いをどれだけの人が実感していくのだろう。この家の価値は、生活がそこにあってこそ、なのだ。豊かな暮らしとは何か?日本の自然と四季を生かした住まいとは何か?これからの生活には、少なくともこの二つを考え抜く必要性があることを、大村さんとこの家は教えてくれた。
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