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「凛」とした表情を見せる玄関正面。
沼津内浦湾の最奥、三津浜。家族連れで賑わう「三津シーパラダイス」の近く、そこだけポッカリと違う空気を感じさせる建物がある。通りの賑わいに大きな違いがあるわけでもないのだが、歴史の重みが持つ、ある種、緊張感のようなものがそう感じさせるのだろうか。「凛」とした佇まいを見せる旅館、それが安田屋である。
古い木造校舎の廊下を思い起こさせる。
太宰が投宿したという部屋。
玄関に使われている松の一枚板。
床を高くとってあり、風通しや補修のしやすさ、眺めの良さが特徴になっている。
玄関を入ると、白い木肌を見せる「上がり框」が目を引く。良く磨き込まれ、ヒンヤリとした感触に、暖かな季節でもないのに裸足で歩いてみたくなった。あくまでヒンヤリであって、決して冷たいというのとは違う感触。これは木だけが持つ感触なのだろう。こちらのそんな気持ちを察したのか、気持ち良い笑顔で迎えてくれた女将の安田康江さんに解説していただく。
「これは松の一枚板です。玄関ということもあって、少しワックスを掛けていますが、他の場所には一切ワックスがけはしていません。木の持っている本来の感触を大事にしたいと思いまして。」と安田さん。続けて「木というのは、乾拭きだけで十分つやの出るものなんです。」と付け加えてくれた。確かに、廊下を進むとサラサラした感触が心地良い。ただ、それだけに日々の手入れはなかなかの手間であろう。女将さんの言葉、木の空間の見た目、手触り、何気ない中に木や建物に対する愛情がにじんでいる。
さて、館内を案内してもらい最初に目を引いたのが、半周で一階と二階を結ぶ螺旋階段だ。螺旋階段というものは案外使いにくいものだが、檜で出来たそれは木肌の色が明るく、また幅も十分あり、かなり使い勝手の良いものだった。複雑な作りなのだが、軋み一つなく、往時の建築技術の高さをうかがわせる。
圧巻は太宰治が投宿し、「斜陽」の一部を執筆したという部屋だろう。古きよき時代の「粋」を感じさせる、抑えた意匠に感心する。回り廊下に通る、軒を支える丸太材も見事だ。残念ながらこの日は見ることが出来なかったが、窓から眺める富士山の姿も格別なのだという。この他にも細かな細工が施された欄間や雪見窓など、見所には事欠かない、木の魅力が凝縮された木の宿だ。
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