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営業所の外観。
富士宮駅前から139号線を西に進むと、ほどなく道は90度北にカーブし、商店街を貫く形になる。その商店街の北の端、左側に時代劇のワンシーンを思い起こさせるような建物がある。主要道路沿いにあるため、車の往来が激しいが、それが駕籠や大八車だったらどうだろう、などと想像してしまう。
存在感あふれる造り酒屋“富士高砂酒造”。営業所脇から駐車場に車を入れると、もうそこは江戸時代まで時計を逆に回したような佇まいを見せる。
玄関のアップ。
「新酒、出来ました」の合図、「杉玉」がぶら下がっていた。
高砂の酒造りを、ずっと見守ってきた漆喰の壁。
歴史を支えてきた梁。がんばれよ、と声をかけたくなってしまう
早く中を覗いてみたいという衝動にかられ、必要もないのに小走りになってしまう。事務所の応接セットに通され、内部を見回すと、江戸時代というにはかなり新しい感。取材時に建物の案内をお願いした総務部長の大川忠秀さんが「事務所のある建物は、明治初期に磐田の農家を移築したものです。」という。駐車場を降りた時に見た点在する建物はもっと古い印象だった。営業所が明治初期の建築だという事は、他の建物はいったいいつ頃のものだろう。「敷地内には精米所、醸造蔵、貯蔵蔵などがあって、建築時期も天保年間、明治、大正と様々な時代に及びますね。」造り酒屋とはいえ、近代的な設備を誇るメーカーがある中、どうして古い建物にこだわるのだろう。
その答えは“山廃造り”という酒の醸造法にあった。専門的な話は省くが、かいつまむと、特定の建物に住み着く乳酸菌を使い、自然に発酵させてできたものが“山廃造り”という酒なのだ。高砂酒造は、県内で唯一の山廃蔵なのである。この醸造法を貫こうとすれば、乳酸菌の住み着く木造の建物、部屋はもとより、気温や湿度、使用する井戸水に至るまで神経を使い、デリケートな管理を徹底することになる。現状を維持することが品質。今ある環境をとにかく大事にする。それは効率性の追求であると同時に独自性の保持である。そうでなければ「高砂」という酒はアイデンティティーを失うことになる。
さぞや大変な仕事だろうと思うのだが、「それが仕事だと言ってしまえばそれまでなんですが、楽しいですよ、酒造りは。」と事もなげに言う大川さん。しかし、不思議なものだ。建物に住み着く菌の成せるワザ。菌の棲家は、木の家なのだ。こちらの山廃純米吟醸はかなり美味しいお酒だが、この酒のルーツとなった、江戸や明治の時代に想いを巡らせて飲むほうが、なお美味しいだろう。
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