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圧巻の熊平邸全景。
桜の大樹が背後から見守る。
天竜市熊(くんま)の中心部は、市内から車で阿多古川を遡ること30数分。さらにそこから4〜5分ほど渓谷沿いを走る。前方が明るくなってキャンプ場が出現。カーブを曲がると、20数軒の熊平(くまだいら)集落の全景が見渡せる。目に飛び込んできたのは、圧倒的スケールと荘厳な雰囲気をもつ熊平邸。思わず「うわっ!」と声が出てしまった。
玄関とその軒先。
母屋の前に建つ蔵。
瓦が空から圧倒的迫力で迫る。
内部
ご主人の熊平一吉さんは林業を営む。いま天竜市には専業林家が三軒ほどしかない、と聞いたうちの一軒だ。通された部屋には、熊平邸の全景写真が戦前、戦後、そして近年と3枚並べて飾ってある。「いやぁ、この瓦の葺き替えに丸二年。なかなか手間はかかりますよ。」写真を見ながら解説を加えていただく。平成元年に瓦の葺き替えに着手。「二年かかったのは、屋根も広いし瓦は高価だから、いっぺんに出来なかったってことです。」と笑う。
ご主人は、春野町熊切生まれ。「なぜか熊づくし(笑)。」実家もやはり林家。林業が好きで勤め人を辞め、この熊平家に婿入りした。奥様は、生まれも育ちもこの家。「とにかく広いでしょ。戦時中は疎開してきた人をいれて7世帯20数人が暮らしていました。今思えばすごいことですねぇ。」明治26年にできたこの家の広さは、今の家族数(三人)ではもてあまし気味。「人寄りがするとき、家を見せてと来客があるときは大変です。掃除はもちろん、しつらえもしなきゃいけない。それに天井が高くて軒が長いから、冬は寒いです。来客の際は前から暖めておかないと。」取材時はかなり前から部屋を暖めてくださっていて、奥様の心使いが伝わってきた。これも木の家ならではのおもてなしなのだ。
一本の大きな桜の木がこの家を背後から見守っている。桜の季節はこの桜を目当てに多くの方がこの集落を訪れる。「桜を見たあと“お宅を拝見させていただけませんか”と訪ねてくる方が多くなりまして。だから余計キレイにしておかなきゃ、となりますから、さらに忙しい(笑)。」お宅拝見は、拝見される側の苦労はなかなか伝わらないものだ。
帰り際、家を建て替えようなんて思ったことはありますか、とご主人に聞いてみる。質問を笑い飛ばしながら「ぜ〜んぜん!だって、もったいないじゃん、こんな家ないですよ、他に。」訪問したときからなんとなく予測し、期待していた答えが、あっけらかんと響いてこの取材の締めくくりとなった。
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